中村(敦志)研究室
       
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2009年度ゼミ論

        アメリカにおける子どもの虐待
                                
                                     
谷口 綾香


 アメリカでは、年間に子どもの虐待の通報を受ける件数は、90万3千件以上にものぼる。年間通報約4万件の日本とは比較にならない数だ。なぜアメリカでは、このように深刻な社会問題となっているのだろうか。
 
 アメリカでの子ども虐待には、どのようなものがあるのだろうか。例えば、親のアルコールや麻薬などの常用と依存症、子どもの置き去り、そしてアメリカで多く発生している遺棄(ネグレクト)などがある。この遺棄とは、生活に必要なもの(医薬品や衣食住)を与えない、教育の機会を与えない、家庭内の暴力にさらす、という3つに分けることができる。
 
 2007年、このような虐待を受け死亡した子どもの数は1760人にもなる。その子どもたちは、どのような虐待を受けていたのだろうか。最も多いのは、複数の種類の虐待を受けていた子どもたちだ(35.2%)。次いで、既述のような遺棄のみによるもので(34.1%)、3番目は身体的虐待のみによるもの(26.4%)。そして、これらの虐待での死亡率は、年齢が低いほど高くなっている。その原因は、幼児が他者に依存せざるを得ないこと、体が小さいこと、自分を守ることが不可能であるからだ。反対に年齢が高い子どもは、大事に至る前に自分の力で他人に助けを求めることができるため、死亡率は低い。

 それでは、一体どのような人たちが虐待をしているのだろうか。2001年のデータでは、虐待者は親が80%を超える。子どもを虐待死させた割合をみると、母親が32.4%、父親が14.2%と、母親のほうが高くなっている。次いで多いのが、里親による虐待だ。日本で虐待を受けた子どもは、児童養護施設等への入所が圧倒的に多い。それに対してアメリカでは、里親家庭への委託が70%を超えているのが理由だ。
 
 子どもたちを守らなければいけない大人たちが、なぜ虐待をしてしまうのか。上記の母親について、考えてみよう。母親が父親より高い割合で虐待をする原因は、母子家庭が増えたからではないかと考える。1950年の調査によると、18歳未満の子どもがいる母子家庭は6%だったが、2000年には約3.7倍の22%となる。同じく父子家庭では、1%から5%の増加に留まっている。

 では、なぜ母子家庭での虐待が多く発生するのだろうか。虐待をする母親の特徴をみてみよう。その多くが、20代半ばの若い親で、高校中退者であり、貧困ライン以下で生活する者だ。そのため、気分的に鬱積し、ストレスへの対処が難しい場合が多いと考えられる。

 母子家庭の多くの母親は、家族のなかで唯一の働き手である。そのため、子どものしつけ、子どもの相手、子どもの面倒といった数々の役割を全て一人でこなさなければならないので、かなりのストレスを抱えていることが予想される。そして、男性よりも収入が劣ることが多く、それに加えて他の女性よりも若く、学歴が低い。これは、虐待をする母親の特徴とも類似する。このことから、なぜ母子家庭で多く虐待が発生してしまうのかということが分かると思う。

 年を追うごとに増える一方の虐待だが、虐待は子どもたちにどのような影響を及ぼすのだろうか。新生児が虐待を受けた場合、失明などの生涯を通じての症状。長期にわたる虐待の場合には、睡眠障害や精神不安定などをひき起こしやすくなる。また、子どもの人間性にも影響を及ぼす。例えば、家庭内暴力にさらされた男の子は、仲間に対して攻撃的な態度をとったり、成長したときに自分のパートナーに暴力をふるったりする確率が高くなる。女の子の場合には、大人になってからDVを経験する比率が高いことが、研究で明らかになっている。このように、身体的に傷つくばかりでなく、子どもの成長にとっても深刻な影響を及ぼす。

 これまでアメリカの子どもの虐待について調べてきたが、虐待を劇的に減らすのは難しいだろう。しかし、少しでも虐待の疑いがあると思ったら施設に通報する。そして、親の話を聞いてあげるなど、周りの協力により、虐待を受けている子どもたちを一人でも多く救うことができるのではないかと考える。


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