中村(敦志)研究室
       
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2009年度ゼミ論
 
             アメリカの冤罪
     ―無実の人間の自白―

                                            和田 唯


 これまでアメリカの冤罪について調べてきた。その主な原因は警察官及び検察官の証拠不開示、目撃証言による間違い、不適切弁護によるものがある。それを防止するために、証拠開示やDNA鑑定といった対策が採られた。本論では、無実の人間が自白してしまう「虚偽自白」の実態について述べていこうと思う。
 
 20世紀初頭までアメリカ警察は、被疑者から自白を引き出すために「拷問」に頼る傾向にあった。だが、最近の取調べ方法は「取調べ誘発型」と言われ、強制というよりも、「心理的」なものになっている。無実の者が警察の圧力または心理的誘発によって自白させられた嘘の証拠のことを「虚偽自白」と言うが、この自白の傾向としては、@自白者が若年層であること、A精神的能力が低いこと、B複数の虚偽自白(1つの事件において複数の虚偽自白が存在すること)などが挙げられる。
 
 第二に、虚偽自白者の心理面においてである。被疑者の意思決定は、心理的取調べ(罪を認めるか認めないかにおいて)により被疑者にどのような利益・不利益が生じるかをまず説明する。そして、その心理的誘発が被疑者に利益をもたらすように説得させられ、意思決定されることが多い傾向にある。つまり「取調べの目的は、自白を引き出すことであって、被疑者が真犯人かどうかを決めることではない」(Steven p.28)。自ら罪を認めることが被疑者の利益になり、否認を続けることは不利益になると説得することである。これは説得を鵜呑みにしやすい若年層や心理面が弱い精神障害の人のみならず、社会的または経済的に下級層にいる人も虚偽自白に陥りやすいことになる。また、警察官や検察官が目撃証人に質問する時の語法の使い方においても影響の受け方が異なり、このことは虚偽自白を引きだす上でも大きく影響している。「人は高いストレスを受けたり、気を散らされたりした場合、わずかな情報しか符号化できず、その結果、不正確な記憶しかもち得ない」(Brian p.101)。重要なことは、記憶や認識だけでなく、正確な記憶を引き出すことであり、またその過程も記録し保存することである。

 第三に、虚偽自白の実態とそれがもたらす影響についてである。虚偽自白は他の誤った有罪証拠と比較しても格段に影響力が強いため、虚偽自白者が有罪判決を受ける場合、ほぼ確実に厳しい判断を下される。「陪審裁判を受けることを選択した無実の被告人のうち5分の4以上が、後に完全に虚偽であったことが立証された。」とある。被告人の自白が虚偽であることを証明する方法は4つあり、@犯罪自体の不存在、A物理的に不可能であること、BDNAなどによる科学的証拠、C真犯人の発見である。 この一方で、「125件のうち、3分の2の事例では、主にDNA鑑定の活用によって、有罪判決後でなく後半前に、無実が判明している」(Steven p.20)。公判前に被疑者がDNA鑑定を受けることができれば、無実の者が有罪判決を受けることは極めて減少するであろう。

 第四に、虚偽自白者に対する警察官の動きについてである。無実の者から虚偽自白を獲得すると彼らに対し、連続殺人犯などのレッテルを貼り、未解決事件を押し付けて事件を終結させようという動きがある。そのため上記でも述べたように、1つの事件の中に複数の虚偽自白があるという複数の虚偽自白が生じるのである。通常の取調べは2時間程度であるのに対し、「虚偽自白者の80%以上が6時間以上の取調べを受け、50%以上が24時間以上の取調べを受けている。」というのが現状にある。

 最後に今までアメリカ警察が教えられてきた心理的取調べ方法は、無実の者を虚偽自白に陥れる危険性がある。虚偽自白を防ぐのに重要なのは、被疑者の自白と犯罪の事実とが両方とも適合しているかどうかを記録に残すことである。そして実効性のある改革の導入や、事実認定を正確で信頼性のあるものにすることで、警察の取調べ中の違法行為を防ぐ。虚偽自白が証拠として使われ無実の者が犯人にされることを阻止できるのである。また、捜査過程での録音・録画を記録として残し、虚偽自白の全過程を証拠として提出できれば、誤って無実の者が有罪判決をくだされることはなくなるのではないだろうか。虚偽自白が存在する限り完全な証拠開示には至らない。警察官の質の改善はもちろんのこと、DNA鑑定を受ける権利を確立させることが虚偽自白を防ぐ一番の解決になると私は思う。



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