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2009年度ゼミ論

         アメリカと肥満


                           若山 菜美子


 現在、国民の6割が肥満とされているアメリカ。開拓時代のアメリカ人の美徳は禁欲と勤勉であり、肥満は富裕層のごく一部の人間に見られるものだった。しかし今や肥満の大半は庶民に広がり、特に労働階級・貧困層で肥満が目立っている。高度な肥満は命の危険にさらされる恐れがある。それゆえに肥満は決して軽視してはいけない問題だ。それなのになぜアメリカは肥満大国になってしまったのか。肥満の原因は何なのだろうか。そしてなぜ肥満の中心が貧困層なのだろうか。この疑問に対して時代背景と生活習慣に着目して考えた。

 アメリカ人の肥満化は1970年代にアメリカで農業の自由化が始まり、輸出入が活発になり、それに伴い食品加工技術が向上したことから始まる。技術の向上の結果、高果糖コーンシロップという甘味料とパーム油が開発された。どちらも安価で使用すると味の質が上がり、食品の長期保存が可能になったため、加工食品に広く使用されるようになった。この二つを摂り過ぎると人体に悪影響を与える。ファストフードを例にすると、高果糖コーンシロップはコーラなどの清涼飲料水に使用され、果糖の過剰摂取はインシュリンへの抵抗力を増やすため糖尿病に繋がる。パーム油はポテトを揚げる際に使われ、パーム油の摂り過ぎはそのまま脂肪の過剰摂取となる。この二つの食品だけに限らず、工場で一度に大量生産された冷凍食品は生産コストが低価格であるが、味の質が損なわれないように香料や着色料などを多量に使用し加工されている。使用されているそれらの成分のほとんどが「脂肪細胞」を増やす性質である。つまりこの頃から国内の加工食品自体が太りやすい性質へと変っていったのだ。

 次に、女性の社会進出との関係から考察してみよう。1970年代に女性解放運動が盛んになり、女性が家庭を出て仕事をする機会が増えた。既婚女性も例外ではなく、共働きの家庭も増えた。女性が家の外で労働する時間が増え、逆に家事に費やす時間が減り、さらに子供を一人で留守番させる時間も長くなった。 そのため、特に両親が共働きの家庭で、冷凍食品やファストフードなどが手料理に代わって食卓に並ぶようになる。短時間で簡単にしかも低価格で食べられるため、太りやすい食品に頼る食習慣が定着した。技術向上による新しい性質の加工食品と、時代による社会の変化が生み出した新しい食習慣こそが肥満大国の根源である。

 ではなぜ貧困層で特に目立って見られるのか。まず、貧困層の庶民たちは医師にかかることが困難な場合が多く、そもそも肥満に対する知識が低い。つまり十分な栄養指導がされないので肥満を避けることが出来ない。そして上記にもあるように、両親が共働きの家庭というのは、特に貧困層の家庭の特徴だ。 さらに肥満に拍車がかかるのは、労働階級の人々は運動をしないことが原因の一つとして挙げられる。彼らは多忙や貧しさを理由に、太りやすい食品に依存し、運動の時間を設けない。体脂肪は健康のために必要なものだが、余分な脂肪は臓器に負担をかける。場合によって死に至る病気を引き起こしてしまう。現在のアメリカでは、大人の病気であるはずの成人病を患う子供たちが増えている。これはファストフード等の食べ過ぎが原因である。この事実を認識していないから食の質や習慣が改善されず、肥満が増加する一方なのだ。 そして、もし病気になっても病院に行けない人たちが居るため、深刻な問題となっている。

 アメリカ議会は、将来を担う子供たちまでもが健康の危機にさらされている事実に目を向けて、何かしらの対策をとるべきだと思う。だが、ファストフード業界は毎年何百万ドルも使って政治家に影響を与えているため、規制したり取り締まったりすることが難しい。 しかし、一人一人がファストフードに依存する食生活を見直し、自主規制するべきだ。私たち消費者は誰にも強制されているわけではないのだから。




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