中村(敦志)研究室
       
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2006年度ゼミ論
                               
   食文化から見るアメリカの生活

                                         神田 奈美


 アメリカの料理は、「まずい」とか「簡素である」と言われている。広大な土地と豊かな気候のお陰で食材は豊富にあるのに、アメリカの一般家庭では、実に簡単な食事が日々食べられているようである。例えば、朝はほとんどシリアルやトーストですませ、昼にはサンドイッチや果物を主に食べる。日本の様にランチに6〜7ドルもかけずに、たとえ外食になったとしてもホットドッグやハンバーガーなどのファーストフードで十分なのだそうだ。そして夜には冷凍食品や作り置きして冷凍しておいたものを解凍して食べることが多い。

 なぜアメリカでは、旬の食材や調味料、だし汁などにこだわった料理が定着してこなかったのだろうか。その理由は食事を準備する側の両親、特に母親の忙しさが影響しているのではないかと考えた。 日本と比較すると、管理職に就く女性はアメリカでは日本の約4倍にも当たる。また、日本では子どもが生まれると仕事を辞めてしまう人が多いが、アメリカでは乳幼児を育てながらも働く母親が多く存在している。これらの女性の働く理由は、「家族や自分自身を養うため」が7割を超える。一見すると、日本人の働く理由と変わりないと思われるかも知れないが、日本人の働く理由は「自分のスキルアップのため」や「時間が空いているため」が多い。18歳から24歳までの青年に同じような質問をしたところ、「収入を得るために働く」と答えた日本人は59%なのに対し、アメリカ人ではなんと90%にも上る。

 このような違いは、アメリカと日本の就労条件の差によるものかもしれない。アメリカでは日本のように、決まった時期に新卒者が就職活動を行なう習慣がなく、雇用する側もはじめから即戦力になりうる人材を確保する。それゆえ、専門知識でも身につけていない限り、学校を卒業しても行くあてはなく、低収入を余儀なくされながら働き続けることが多いのだ。ちなみに93年の国勢調査の調べでは、全米の高卒者の平均給与賃金は月額1080ドル。これを時給に直すと、約6ドル25セントにしかならないそうだ。そしてそのまま結婚すれば、当然生活が困難になってゆくのである。

 また、定職に就けたとしてもボーナスが支給される習慣がなく、社宅などの援助や交通費の支給も一切ない。さらに学歴によって給料にもかなりの差が生じ、一般の家庭では夫の稼ぎだけで生活していくことが困難なのだ。それゆえ、専業主婦の女性はほとんどおらず、母親たちは子どもが幼くても働かざるをえない状況なのだそうだ。

 このような状況が、ベビーシッターや家事の手伝いをするサービス、また食事のデリバリーサービスの普及、そして冷凍食品の普及にも拍車をかけたのではないだろうか。毎日仕事で忙しい母親のために、少しでも便利で手早く食事を取ることの出来るシステムが必要であったようだ。

 また、アクティブなアメリカ人は仕事が休みの日であっても、ボランティアや子どもの課外活動(野球やボーイスカウトなど)の応援や参加で、週末も忙しく過ごすことが多い。この様な生活様式から、手軽で簡単、しかも子どもが一人で食べることの出来るようなシリアルやファーストフード、冷凍食品が定着していったのではないか。

 このように、食と生活との間には密接な関係があり、特に女性の職場進出がアメリカの食文化に大きな影響を及ぼしてきた。アメリカにおける食文化は、まさに活動的なアメリカ人に合うように、「手軽で簡単」をテーマに、時代とともに変化を遂げてきたのではないかと思う。


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