中村(敦)研究室
       
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           日米の色の嗜好の違いと文化的背景

                                          小松 容子

 日本人とアメリカ人では色の嗜好(しこう)が異なる。お菓子・服・化粧の発色など、アメリカでは派手な色が受け入れられているが、日本では比較的落ち着いた色が受け入れられている。では、なぜ日米間にこのような色の嗜好の違いがあるのであろうか。この疑問に対し、本稿では、色の嗜好にはその国の文化が影響していると考え、日本とアメリカで嗜好の違いがある色を例に挙げ、その色と文化との関係を次のように論じた。まず、第一節で、色の嗜好の違いに宗教が関係していることを(1)日本における白色とアメリカにおける紫色(2)日米学生の青色から連想する言葉の違いを例に挙げ示した。次に、第二節で、色の意味とその国の歴史的背景が関係していることを、日本における紫色とアメリカにおける赤色を例に挙げ示した。第三節では、黒色・白色・灰色を例に挙げ、これらの色を含んだ言葉の使い方から、国柄の違いと色の嗜好の関係を示した。第四節では、日本人の黒色に対するイメージの変化を例に挙げ、他文化との関わりにより色の嗜好が変化することを示した。そして最後に、なぜ日米間で色の嗜好に違いがあるかをまとめ、展望を述べた。

 日米間で色の嗜好が異なるのは、本論で例に挙げた4つの文化的背景の違いが影響しているからだと考えられる。1つ目は、宗教の違いである。日本人が白色を好むのは、神官(しんかん)の衣・玉串(たまぐし)・注連縄(ちゅうれんなわ)の紙垂(しで)などが白色であるなど日本で古くから宗教儀式において白色が神聖なものとして使われていたことが影響しており、日本人が白色に良いイメージを抱くようになったと考えられる。また、アメリカで紫色に負のイメージを抱く人がいるのも、喪服に紫色を使っていたこと、キリストの死を連想させることが現代の紫に対する負のイメージに繋がっていると思われる。また、青色から米国人学生のみが信仰を示す言葉を連想したのは、信仰心に違いがあるからだと考えられる。2つ目は、歴史の違いである。日本では、紫色が高貴な色として認識されている。それは、養老二年(718年)に、役人の階位に応じて制服の色が定められた歴史が影響していると考えられる。9ランクから成る階位の上位の1位が紫色であった。そして、寺院で縁日などの特別な日には紋所(もんどころ)入りの紫の水引幕(みずひきまく)を掛けること、袱紗(ふくさ)や風呂敷の色は紫がずっと定番色だったことなどが、現代において紫をもっとも高貴な色と思う背景になっていると考えることができる。また、アメリカにおいて赤色に要警戒の意味が含まれるようになったのは、1950年代の赤狩りの歴史や赤色が共産主義を表した歴史的背景が影響していると考えられる。3つ目は、国柄の違いである。あいまいな立場に対しアメリカ人が灰色を使うことには、アメリカ人の物事を明確にする性格が影響しており、言葉を濁(にご)すことを美徳とする日本人との性格の違いが表れていると考えられる。4つ目は、他文化との関わりに違いがあることである。日本人は明治以前では黒色に対し勝ち、上手、強いなどのポジティブなイメージを抱いていた。しかし、1897年に英照皇太后の国葬でヨーロッパ様式を導入したことにより、日本の喪服は黒色になった。その結果、日本人の黒色に対する良いイメージはなくなり、悪いイメージが定着したのである。

 このように、現代において日米間で色の嗜好や色遣いに違いがみられるのは、両国それぞれの色に独自の文化的背景が影響しているからであるといえる。
日本人は、古くから受け継がれてきた色彩文化を絶やすべきではない。迷彩服や原色など欧米から影響を受け日本で定着した色はある。しかし、宮崎駿をはじめとする日本のアニメーションにおける色彩や日本人のファッションセンスなどが世界で高く評価されるなど、繊細な色使いが出来るのは日本人特有であり、長い日本の歴史の中で引き継がれてきた伝統である。日本はアメリカとこの先も関わり続けるが、日本では近代食の欧米化が進み、健康問題が懸念されるなどアメリカから負の影響も受けている。そのような時代の中で、日本文化を消さないためにも、他文化との関わりの中で今一度日本の「色」を見つめなおし、日本古来より続く色彩文化を次世代に継承していく必要があると考えられる。


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