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2005ゼミ論

             
PEANUTS を通してみるアメリカ文化

羽野 真依子


 私が小学生くらいだった頃、テレビで『ピーナッツ』のドキュメント番組を見たことがあった。その番組の中で、ある一コマが紹介されていた。主人公チャーリー・ブラウンの親友ライナスが、「今テレビでものすごい反撃を繰り広げたフットボールの名試合を見たんだ」、と興奮冷めやらぬ口調でチャーリー・ブラウンに話していて、「君にもぜひ見せたかったなぁ」と言う。それに対してチャーリー・ブラウンは「相手のチームはどう感じたかな?」とぽつりとひとこと言ってこの作品は終わるというものだった。この最後の台詞には味方が勝った喜びよりも、敗れたチームのことを思いやる人間としての基本的な優しさと、いたわりの気持ちが表れていて、作者シュルツの人柄と人生観があったからこの名作が生まれたのだろうと、番組で紹介されていたのを今でも覚えている。

 当時の私は、スヌーピーが漫画であることも、チャーリー・ブラウンという飼い主がいることも知らなかった。ぬいぐるみやマグカップ、タオルなどのスヌーピー関連グッズのような「商品」としての、あるいは「物」としての認識しか持っていなかった。しかし子どもながらに『ピーナッツ』は、「心」の深い部分を扱う漫画なのだと感じた。

 1950年10月2日に漫画『ピーナッツ』が新聞に掲載されて以来約、50年間も助手を使わずにコミックを書き続けた作者チャールズ・モンロー・シュルツ。現在では世界75ヶ国2600誌以上に掲載され、3億5000万人の読者を持つ漫画『ピーナッツ』。この漫画からは、アメリカについての解説書やマスコミ報道を通じてだけではあまり伝わってこないアメリカ文化、そしてアメリカ人の本音、人生観といったものが読み取れる。この漫画にはアメリカの平均的市民の生活ぶりが、子どもたちの行動を通して実によく描かれている。スクールバス、お昼の過ごし方、宿題、先生へのごますり、教会と神様、クリスマスや復活祭、ハロウィーン、親子関係、アルバイトの仕方、野球、フットボール、おやつなど、貴重な資料となるものが多くある。しかしこの漫画は、単に表面にあらわれたライフ・スタイルだけを扱っているのではない。人々の価値観や生きがい、喜びや悲しみ、郷愁や追憶といった心の領域をも描いている。ふだんは目に見えないもの、旅行者などにはなかなか見えてこない内面の世界が、いきいきと伝わってくる漫画だ。

 日本が豊かになり、アメリカとの生活格差がなくなるにつれて、アメリカに対する関心は薄れてきている。しかし私たちは分かっているようで、意外にとんでもないところで、アメリカについて誤解しているのではないだろうか。情報がこれだけ大量に入り込んでいる割にはアメリカのことをよく分かっていない面がある。漫画『ピーナッツ』を読むことは、私たちが抱えているアメリカについての誤解を、世界共通である喜びや悲しみ、希望や孤独などの感情と共に、それを解く糸口になるだろう。アメリカ人が親しみを感じているものを理解するということは、アメリカを理解するということに一歩近づくことではないだろうか。
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