なぜアメリカでサッカーが流行らないのか
山口 高志
スポーツは、アメリカ社会において、最も人気のある文化的な活動の一つである。スポーツの世界においてアメリカは世界のトップクラスであり、スポーツ大国だと言えるだろう。このようにスポーツが盛んなアメリカだが、サッカーに関してはそうではない。
かつてアメリカのサッカー界には、1968〜84年にかけてNASLというプロリーグが存在した。ルールを独自にアレンジしてエンターテイメント性を重視して、アメリカ人の関心を集めたが、結局リーグは解散してしまった。その後MLSがアメリカにサッカー文化を根付かせるべく構想された。リーグ創設にあたり、失敗を繰り返す事のないよう入念に準備を進め、プロ・スポーツ大国アメリカの名誉をかけて1996年にMLSは開幕した。しかし。MLSはいまだ人気が出ない。その理由をいくつか考えてみた。
スポーツにおいて重要なフェアの考え方がヨーロッパの国々とアメリカとでは違う。アメリカ人にとってサッカーとは公正さに欠けていて、見ていても面白くないスポーツなのかもしれない。そして、ヨーロッパとアメリカのシステムの違いを考えると、アメリカのほうが1試合を楽しむのに向いたシステムにつくられていると言える。スポーツをエンターテイメントとして楽しむのに適しているのだ。MLSもエンターテイメント性を高めるためのルールもつくったが、それではアメリカ人の考えるエンターテイメント性が低いところをカバーできていないので人気を取れずにいるのだろう。
サッカーは子どもたちに人気があり、大人たちからもしっかり認知されたスポーツに既になっている。しかし、アメリカでのサッカーの地位はまだ教育的スポーツの域を脱していない。アメリカでプロ・スポーツだと認知され人気を得るには、プロのエンターテイメントとして成り立たなければいけない。
アメリカでは、スポーツを季節ごとに楽しむ傾向が強い。現在は4大プロ・スポーツによって季節のスポーツ・ローテーションが確立されているため、MLSのような新しいプロ・スポーツリーグが入る余地などどこにもない。
現在MLSのチームはその地域の誇りとなり連帯と共有性を生み出すものとなっている。プロチーム1つ1つがその地域の人々に支えられ、その上にMLSが成り立っているのだ。このようにスポーツと地域が互いに支えあう関係を築いていくことが、スポーツ文化を根付かせることにつながっていくのだろう。NASLが失敗に終わったのは、サッカーと地域との結びつきよりも、リーグ自体に人気を集めようとした結果ではないだろうか。
今後、アメリカにおけるサッカーがどのように発展していくかわからないが、アメリカでサッカーがプロ・スポーツとしての地位を獲得することが出来たときには、世界のサッカー界の図式が大きく変わることは間違いないだろう。
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