現代に残る黒人問題            

齋藤  雅

 

現在アメリカ合衆国の人口のおよそ12%が黒人である。公民権改革から約40年たったが全ての歴史的差別が終結したわけではない。黒人の中にはかなりの中産階級が誕生しているが、ますます絶望の淵に沈む貧困の者もいる。合衆国中に広く行き渡る都市中心部の荒廃や生活基盤そのものの崩壊は貧困者やホームレスの激増、犯罪や麻薬常習犯の増加など、一言で言えば都市生活の危機的状況である。この長期にわたる社会的問題は改善されるどころかますます悪化している。人種差別は容認されず、機会の均等が法律によって保障され、黒人は全体として境遇が向上してきているのになぜ改善されないのか。

合衆国は先進工業国のなかで暴力犯罪の発生率が最も高い。仕事もなく、技術もなく、家庭もなく、希望もない黒人男性がスリ、恐喝、強盗、麻薬の売人といった犯罪に走る。彼らの収入の道は犯罪である。これらの問題は雇用差別に直面する。前科者の就職率は低く、再犯率が高い。釈放後に職を得るのは困難であり、収入源を麻薬密売に求める。黒人の若い男性に失業者や無職が多い。そのため黒人男性は働く意欲を失っている。

未婚の黒人女性の出産の割合は年々増加している。毎年100万人を超す10代の少女が妊娠する。少女達の妊娠は、「子供が子供を生む」と言える。彼女たちは、子供生み、育てるということが容易ではないとわかっている。それが貧困生活の第一歩であることも。それでも彼女達が子供を生むのは、結婚しないで子供を生めば、役所から生活費がもらえて、働かなくても食べていけるからである。

福祉計画による児童扶養布扶助に頼る女性には高校教育を終了せず、技能のない若い単親が多い。福祉依存により、受給者の働く意欲を削ぎ、低賃金の仕事を拒否するとい事態が生じている。彼女たち自身がそのような環境に育てられ、自分の母親と同じ道を歩んでいる。福祉に依存した女性たちを自立させることは大変難しい。貧困が家庭を崩壊させるものであるなら、世界各国で家庭崩壊が起こっているはずである。貧困が家庭崩壊を引き起こすのではなく、家庭事情が貧困へと導いているのだと思う。母子家庭が貧困の最大の原因ではないだろうか。

こうした犯罪、福祉依存、家庭崩壊、貧困の悪循環から、彼らは子供を生む、働く、家族を守ることをどう考えているのだろうか。貧困だから家庭の崩壊が起こるのではなく、貧困だからこそ家族の協力、絆が必要だと思う。悪循環から抜け出すためには、国や地区に頼るのではなく、各々の自立と責任が必要である。

多くの人種が集まる合衆国は人種、民族集団の統合を成就しなければならない。全ての人種問題を解決させることは困難だが、皮膚の色で差別されることのない自由で平等な国にするために、過去の残酷な奴隷制度や人種差別が起こっていたことを心に留め、国民一人一人を尊重し、各々が一人の人間として誇りを持って生きていくことが重要である。

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