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テレビドラマから見るアメリカ

 橋本 周子

 

 アメリカのテレビドラマは、本国のみならず日本をはじめ各国で放送され、熱狂的なファンも存在するほどの人気を博している。

テレビ時代の始まりとともに、ラジオドラマとして「声」だけで放送されていたものがテレビドラマへと移行し、実際に役者が演技をしている視覚的要素が加わることで、よりリアル感を増して人々の心を掴んだ。以来、西部劇、SF、刑事物、医療物など、時代によってドラマのジャンルは変遷を遂げることとなる。その中で、いつの時代でも視聴者を惹きつけたのは「シチュエーション・コメディ」、いわゆるシット・コム(sitcom)であった。特に、家庭をテーマにしたファミリー・コメディは、10年近くも放送される長寿番組となるものもあった。

シット・コムが登場したのは1950年代、「黄金時代」と呼ばれアメリカが経済的繁栄を遂げた時代であった。郊外に住居を構える中産階級層の人口が増加し、「家庭重視」の風潮が強かったということから、典型的な中産階級家庭を描いたシット・コムが多くの人の共感を得て人気番組となったのも頷ける。また、これが他の資本主義国で放送されたことで、広い住居と自動車、洗濯機や大きな冷蔵庫を備えた裕福な生活を送っているような「豊かなアメリカ像」、「すばらしい生活様式」、といったアメリカのイメージを植えつけることになった。

シット・コムの特徴として、社会の風潮、流行、人々の関心事を取り入れやすいということが挙げられる。黒人やゲイなど、まだ社会に根強い差別が残っている人々、少年の非行、ドラッグの問題などもシット・コムのテーマとなるのである。どうしても重くなってしまいがちなテーマも、コメディであれば「笑いの要素」が含まれているため視聴者を沈んだ気持ちにさせることなく取り上げることができる。アメリカ人の生活に浸透し、影響を与え続けてきたシット・コムだからこそ、できることではないだろうか。

一方、コメディ以外のドラマはどうなのかというと、近年の傾向を見ると、警官、FBI、医師、救急救命士、弁護士などの職業が多く取り上げられているようである。これらには「ヒーロー性のある職業」という共通点がある。かつて、普通のサラリーマンが変身して空を飛び、弱い者を助けて悪を倒す『スーパーマン』に多くの人が憧れたように、現代の人々は現実に起こりえる事件に対して自分の身を守ってくれる人にヒーロー性を見出し、憧れを抱いている証拠であるといえるだろう。

このように、テレビドラマは娯楽としての役割だけではなく、アメリカが抱える問題点や人々の願望を映し出している。近頃はその内容がより真実らしく、臨場感のある方法で撮影されているため、一見ドキュメンタリー番組と見間違うものもあるほどである。あくまでもフィクションで表現が誇張されている場合もあるが、テレビドラマを通じてアメリカを知るというのも、ひとつの方法ではないかと思う。